逢いたいと思う気持ちは そっと今

願いになる。



「月のしずく」 唄:RUI より


そこに在る君へ

前編


「もう1年になるな。」

「…ええ。」

「……。」


秋の深まる夕暮れ時。
3人の少年がとある墓地に来ていた。

十二支高校2年犬飼冥、辰羅川信二。そして御柳芭唐だった。

彼らの前にある墓石にはこう記されている。
「猿野家之墓」…と。

ここには彼らの友人でライバルだった一人の少年が眠っている。


1年前、唐突に起きたあまりにも若すぎる死だった。
交通事故だった。



「屑桐さんも来てたみたいだな。」

「ええ。」

既に置かれていた花束を見て御柳は呟く。

「…ずっと気にしてたみたいだし…無理もねえけどな…。」

「そう…ですね。」

「……。」


あの日の事は今も昨日のことのようによみがえってくる。



######

その日、犬飼、辰羅川…そして猿野天国と他の十二支の1年たちは、部活帰りに街へ立ち寄っていた。


そんな時、目の前からライバル校である華武高校の御柳や屑桐を含むメンバーに会ったのだ。

ライバル校ではあっても、県対抗総力戦をともに戦った仲間でもあり。
以前のような険悪さはなかった。


『よお御柳!屑桐さんたちも久しぶりですね!』

『うーす。』

『久しぶりだな十二支。』

『ども…屑桐さん。…御柳テメーは失せろ。』

『うっせーコゲ犬。お前こそ…。』

『ああ、もう犬飼くん御柳くんもそんなもめないで下さい。』

『なんだよお前らまーだケンカしてたのかよ?』

ほかと違い、まだ確執が溶けきっていなかった犬飼と御柳は意地を張ったやりとりをする。

それを周りは苦笑しながら見ていた。


その時。


『兄ちゃーん!』

道路の向こうから子どもの声が響いた。


『あ、あれ…。』

『無汰?!』


道路の向こうで手を振っていたのは屑桐の弟、屑桐無汰だった。


『あれー、少し背が伸びたんじゃねえっすか?弟さん。』

『ああ…無汰!どうしてここにいる?!』

薄暗くなる時間帯、無汰のような子どもが街中を歩くには感心できないころだ。
(もっとも一人で埼玉から甲子園に来た経験の在る無汰には無用の心配だろうが)
兄としては注意する必要があった。



『うん、ちょっと買い物が…。』

そう言って。
無汰は兄の下に来ようとガードレールを抜けて。


『待て、無汰…!車が…。』


車が来るから、こっちへ来るなというつもりだった。


だが無汰はその時、兄に逢えたのが嬉しかったのか。
そのまま車道を横断してきた。


もしかしたら夜道が少し怖かったのかもしれない。それで兄にあえて安心したのかもしれない。


だから、無汰は前だけ見て、横断してきた。


だが。




手前の交差点を右折してきた車が突然現れた。



『無汰!!!』



『え?』




『危ない!!!』




屑桐が弟を危険から救おうと飛び出そうとした一瞬前。


屑桐の横を別の影が飛び出した。




ドン




無汰の身体が突き飛ばされた。





   [えいっいっただき〜!]


『   』


   [あっおい大神さんのぼうし…。]


『  』




   プァアアアン





『バカ猿ぅう!!!』



キキキキィ
   


ドン



#####





『兄ちゃん!!!』

『猿野くん!猿野くん!!』



兎丸が、子津が天国に駆け寄った。
血が流れている。
天国の姿が見えない。


『無汰、無事か?!』

『う…うん…。でも…っ!』



『早く、救急車を呼ぶング!』

『分かってる気!』



『……。』

辰羅川はがくり、とひざを下ろした。


『…あ…ぁ…。』


御柳はその場に立ち尽くしていた。



『…さ…る…。』

犬飼は。


天国の血を見ていた。








救急車が来て天国を連れて行くまで。
3人は意識を戻すことは出来なかった。



猿野天国の死亡が確認されたのは、それから1時間のちの話だった。


#####



「…最期までそっくりなんて…酷い話ですね…。」

辰羅川はそっと持参した花を手向け、手を合わせた。

「寝覚めの悪すぎるもんばっか見せやがって…あんのアホ猿…!」
「御柳くん。」

ジャリ、と地面をいらだつように掘り起こす。
(逃げてたオレを引っ張り寄せてきたくせに…またオレを引きずり戻しやがって。)


「……。」

犬飼は目を伏せたまま、墓を眺めていた。


1年たったなんて、犬飼にはまだ信じられなかった。


誰にも言わなかったことだが、犬飼は天国と付き合っていた。
恋人同士だったのだ。

だが、恋人同士といってもまだ友人関係以上の事はしていなかった。
手にも触れていない、キスもしていない。
ただ自分を見てくれる優しい瞳と、素直になれない会話だけだった。


この腕に抱きしめることさえしていなかった。



「猿野…。」


あれ以来、口にすることも辛くなっていた名前を呼んだ。


その時。



〜〜〜〜♪


犬飼の携帯がメールの着信を知らせた。

犬飼は面倒に思いながらも。その時は不思議とすぐに確認した。




携帯に記された言葉を目にした犬飼は…目を見開いた。



携帯にはこう記されていた。




『河川敷にとっとと来い ガングロ犬   猿野』





それは、いるはずのない相手からのあるはずのないメール。

だがこれは明らかにカレから贈られていた。
犬飼は確信し…。



1も2も無く走り出した。



「…!」


「おい、犬飼?!」
「犬飼くん?!」




あいつが待っている。




                      To be Continued…

トリオさま、大変遅くなり申し訳ありませんでした!
…すみません映画には沿ってないです…けど。一応よみがえってきた…ということで。
ご容赦いただけると幸いです。

続き頑張ります!!


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